前回のコラムにて、トラック特徴などデータの数値化表現に関してお伝えしました。その際、「なぜそのような特徴になるのかの説明や解釈」ができると更に良いということも付け加えています。

　例えば、「競馬場によって上りタイムが異なるのはなぜか？」という疑問に対して、多くの方はおそらく「競馬場によってコース形状、特に直線距離が異なるから」と答えると思います。この回答を更に数値で裏付けできるでしょうか。

　下図は、中央競馬各開催場所の「芝2000mコース」について上位入選馬(5着以内)の上りタイムの平均値を集計した値と各開催場所に対応する直線距離を載せたものです。


　この図より、例えば

・平均上りタイムが最も速い「東京」コースの直線距離は「525.9m」
・平均上りタイムが最も遅い「札幌」コースの直線距離は「266.1m」

　といったことが分かり、「上りタイム」と「直線距離」の関係は概ね正しいと言えそうですがここではもう少し詳細に分析してみます。


　上の図は、各開催場所芝2000mの「1-5着馬平均上りタイム」と「直線距離」をプロットした図です。

　これを見ると視覚的に、

・直線距離が短いと平均上りタイムが遅い
・直線距離が長いと平均上りタイムが速い

　ことが分かります。

　更にこれらの特徴を数値で表現するには「相関係数」を用いると良いでしょう。詳細な説明は省きますが、相関係数を用いることで2種類の数値データの関係性を数値化できます。今回の例では、「1-5着馬平均上りタイム」と「直線距離」の相関係数は「-0.90」であり、「強い負の相関」が認められます。相関係数の求め方は知らずとも、エクセルであれば「CORREL」関数で簡単に算出できます。なお、相関係数の注意点として代表的なものに、

・相関係数が高いからといって必ずしも因果関係があるわけではない。

　といった点が挙げられます。

　例えば「人気」と「勝率」の相関係数を調べると「強い正の相関」となるはずですが、「人気があるから勝てる」という解釈は正しくなく、本来は「強い馬だから勝てる」という因果関係が成り立つはずです。

「人気」と「勝率」の相関があるのは、「人気がある」≒「強い(と大衆に判断されている)」という関係性となるように「人気」がある程度正しく数値化されているからです。とはいってもその「人気」は絶対的な数値でなく、人気馬が走らないケースは往々に存在します。従って、勝馬を探すために「人気馬を買う」ではなく、「本当に強い馬を買う」ことが求められます。これは簡単な例でしたが、「因果関係がある」と思い込んでいるが実際は裏に本当の要因が存在しており、それが誤った予想につながるというケースもあるので常に物事を疑うべきでしょう。

　今回例として「平均上りタイム」と「直線距離」の相関を調べましたが、競馬はたかが数種類の数値データで高精度な予測ができるほど単純ではありません。勾配、馬場状態、開催週や季節、レース格、枠順、レース展開(出走馬の相手関係)など多くのファクターが影響します。逆に多くのファクターがあるからこそ千差万別の予想法が生まれます。そこに「データ分析」手法を活用できると、データに対する理解が深まるだけでなく更に予想の幅が広がるでしょう。個人的に、データ分析手法を習得することは競馬のみならず他分野にもつながり、自身のスキルアップにもなるのでオススメです。