○競走馬の成長について考える

　今週末（2022/10/16）はG1秋華賞、来週末（2022/10/23）はG1菊花賞と、牝馬牡馬それぞれの三冠最終レースが行われます。それと同時に3歳世代限定戦（馬齢戦）はなくなり、以後3歳馬はどのレースでの多くの場合古馬（4歳以上馬）と戦うことになります。よく競走馬の馬齢2〜3歳は人間でいうと中学生〜高校生程度と言われおり、たしかにこの解釈だと、一般的に高校生は同じ高校生の中での大会に参加するのが一般的（学生や社会人とは別の区分）です。ただ、特に初心者の方はこのイメージがつかみにくく馬齢が1歳違うだけでそんなに能力が変わるのか（成長するのか）といった疑問を抱くと思います（少なくとも私はそうでした笑）。
そこで今回は特に「競走馬の成長」について、データの側面から考えてみます。

　まずは、「2歳限定戦」「3歳限定戦」それぞれのタイムを比較します。


　上表は2,017年〜2,021年の5年間における芝1,600mレースの「走破タイム」「テン3Fタイム」「上り3Fタイム」の比較です（掲示板に入った馬のみ対象）。走破タイム平均でみると、2歳限定戦での「1分36秒3」から3歳限定戦では「1分35秒6」と速くなっていますが、道中ペースがすべて速くなっているというわけではなく、「上り3Fタイム」があまり変わらない（むしろ３歳戦の方が遅い）ことから、「おおよそ3,4コーナーに入るまでのペースが速くなっている」と言えそうですが本当でしょうか？
　その疑問に答えるため、次に世代限定戦でのレースクラス別の「1着馬〜5着馬先行割合」と「各種タイム指数」の比較をしました。

※先ほどの比較と異なり、異なる距離を含む全レースでの集計なので、単純なタイム比較ではなく、AISS/ウマーブルの計算内部でも用いている「走破タイム指数」「テン指数」「上り指数」での比較を行っています。
（指数が高いほどタイムが良い=速い）


　レースクラスが上がるにつれて、「先行馬割合が減る＝差し・追い込み馬での決着が多くなる」ことや「走破タイムが速くなる」「テンタイムが速くなる」ことはわかります。ただし、「上りタイム」についてはそもそも新馬戦の時点で比較的高く、2歳限定と3歳限定それぞれレースクラス関係なく平均値をとると差があまりでなくなるため先ほど記述した「おおよそ3,4コーナーに入るまでのペースが速くなっている（上りタイムに差はない）」という推測につながったのだと思います。
半分正解なのですが、如実に違うのは「オープン戦」です。特に「3歳限定戦」「オープン戦」の各種タイム指数はすべて「2歳限定戦」よりも高く、道中ペースについていけてなおかつ最後まで脚を余す純粋なスピード能力は上級条件では不可欠となりそうです（特に秋華賞、菊花賞のような世代最後の頂上戦では）。

　最後に、下のグラフは先ほど比較に使用した各種タイム指数を時系列で比較したものです（ダートレースの馬齢戦も含む）。多少値に上下がありますが、特に3歳になってからは各種タイム指数が上昇しており、これが”成長”の証とも言えそうです。


　もちろん今回分析したのはあくまでも「2歳限定」「3歳限定」という大きなくくりでみた成長度合いなので、実際は競走馬それぞれの育成環境や血統傾向、臨戦過程といった様々な要因が成長につながりますし、もっと単純に馬体の変化を見定めることも有効だと思います。ですが、競馬関係者や専門家ならそのような”成長”をつかむコツを熟知しているとしても、我々一般的な競馬ファン、そして競馬AIの場合は、与えられた情報のみでその”成長”をなるべく正確につかむ必要があります。

　競馬ＡＩに「競走馬の成長」を解釈してもらうための特徴量を考えることも開発者の重要な役割ですので今後も様々な視点から検討していきたいです！