■馬場の内側が悪化も逃げ~中団までが有利な舞台
過去のアメリカジョッキークラブカップを振り返ってみると、タフな馬場でネコパンチが大逃げした2013年こそハイペースが発生しているが、それ以降でハイペースになったことは一度もない。多くは極端なスローペースで決着している。
これは前半で急坂を上るコース形態によるものが大きく、基本的にペースが上がりにくい。このため過去10年では逃げ~中団が9勝。2着は先行~好位5回、差し追込5回。展開上は前に行く馬が有利だが、馬場の内側が悪化することで、外からの差し追込が浮上することもある。
今年も極端ではないが馬場の内側が悪化しており、ある程度、前に行ける中目、外目の枠の馬を狙いたい。
■有力馬と評価ポイント
◎ (8)ダノンデサイル
昨年の日本ダービー馬。ダービーでは5番枠からますまずのスタートを切り、軽く押してハナへ行く素振りを見せながらの先行策。最終的には外のエコロヴァルツを行かせて2列目の最内を追走した。
道中はかなりのスローだったが、3角手前でサンライズアースが捲ってきたことで一気にペースアップ。3~4角で外を回るロスがあった馬たちが苦戦するなか、最短距離を通し、直線序盤ではエコロヴァルツの内からすっと伸びる。ラスト2Fで捌いて1馬身ほど前に出ると、ラスト1Fで抜け出して2馬身差で完勝した。
ダービーは内と前が有利な展開。ここは上手く立ち回っての好走だった。これは出遅れて中団中目からの追走となった3着シンエンペラーが後にジャパンCでも2着に入るなど、3~4角で外を回った馬たちのその後の活躍ぶりが証明している。
前走の有馬記念は3着。1番枠から五分のスタートだったが、二の脚で外のベラジオオペラを制してハナを主張。スタンド前でペースを落とし、向正面でじわっとペースを引き上げ、3角から後続を引き離しにかかった。
2番手ベラジオオペラとの差を1馬身に広げて直線へ。序盤で同馬との差はやや広げたが、ラスト1Fで甘くなり、外からレガレイラとシャフリヤールに差されてハナ+1馬身半差だった。
有馬記念当日は向正面が追い風、スタンド前は向かい風の強風。ただでさえ逃げ切るのが難しい状況下だったが、さすがに向正面からの仕掛けは早すぎた。まして本馬はこれまで逃げ経験がなかったことを考えると、この3着は実りある内容だったと見ている。
ただし、前年の有馬記念からここに直行するのはレース間隔が短く、危険なローテーション。前年の有馬記念で3着に善戦し、ここで1番人気に支持された2015年のゴールドシップを含め、過去10年で8頭が出走しすべて馬券圏外に敗れている。
ダノンデサイルも当初はここに出走する予定がなかったが、ここに出走してくるのは菊花賞が馬体重18kg増の太目残りでの出走となり、有馬記念でも馬体がほとんど絞れていなかったからのよう。
菊花賞は成長分を加味しても重く、昨秋の2戦は日本ダービーほどの指数では走れていない。そのうえでこの中間の調教量が豊富なだけに、まだ余力があると見て本命に推す。
○ (15)エヒト
6走前、一昨年の小倉記念を完勝して重賞2勝目を挙げた馬。その時は3番枠から出遅れたが、かなり押して内目のスペースを拾って好位まで挽回した。道中は前のマリアエレーナが外に行ってくれたので、その内のスペースを拾って3角を迎える。
3~4角で最短距離を通しながら仕掛けて前のスペースを詰め切り、スピードに乗せて4角出口でひとつ外へ。直線序盤で先頭のテーオーシリウスにクビ差まで迫り、ラスト1Fで同馬を突き放して2馬身半差で完勝した。
ここでは完璧に乗られてはいたが、本馬は初重賞制覇となった2022年の七夕賞しかり、3角までに好位やその直後辺りの位置を取った時は毎回のように好走している。ここも好位を取れた時点で勝ち負けが約束されたようなレースだった。
前走の中日新聞杯はスタミナが不足する長期休養明け。12番枠からかなり押してハイペースで逃げるデシエルトの2番手と、同馬を追いかけすぎたために9着に失速してしまった。しかし、ひと叩きされたことで息持ちが良くなるはず。
また、本馬はゲートに甘さがある馬だが、前走では五分のスタートを切って、比較的スムーズに先行していた点も好感が持てる。ここも上手く先行できれば上位争いに加われていい。
▲ (16)チャックネイト
ノド鳴り手術や去勢手術を乗り越え右肩上がりで上昇し、不良馬場で行われた昨年のAJCCを優勝した馬。同レースでは11番枠からまずまずのスタートだったが、思い切った先行策で2列目の外まで進出した。
道中は2番手ショウナンバシットの後ろで進め、3~4角でペースが上がっても前2頭に離されずについていく形。4角では前2頭の外に誘導して鞭が入り、外から上がったボッケリーニに併せて3列目で直線へ。
直線序盤では一旦ボッケリーニに先頭を譲り3番手争いとなったが、ラスト1Fで甘くなった馬たちをかわし、最後にボッケリーニを差し返してハナ差で勝利した。
重馬場の6走前・六社Sで3勝クラスを突破しているように、道悪が得意で最後までしぶとく伸び続けるスタミナがある。本馬は不良馬場でラスト1F13秒1も要した消耗度の高いAJCCで能力を出し切ったことでその後はスランプに陥ったが、立て直されていれば得意舞台のここで巻き返しがあっても不思議ない。
重馬場や不良馬場がベストの馬だが、現在の中山芝も標準レベルまで時計を要しており、許容範囲だろう。超高速馬場だった5走前のアルゼンチン共和国杯でも中団中目から最後の直線で外に誘導し、伸び始めは地味ながらもしぶとく伸び3着に善戦しており、復調さえしていれば上位争いに加わってくると見る。
注 (13)コスモキュランダ
昨年の皐月賞の2着馬で、中山芝2200mのセントライト記念でも2着の実績がある。皐月賞では12番枠からやや出遅れたが、コントロールしながら1角で内に入れ、向正面では中団内目で我慢し、3~4角ではシンエンペラーをマーク。かなり押しながら鞭まで入れて中目に誘導して4角出口で外へ。
直線は4列目からじわじわ上がり、ラスト1Fでは内から先に動いたジャスティンミラノと一緒に伸びた。先に抜け出したジャンタルマンタルは捉えたが、ジャスティンミラノにはクビ差届かなかった。それでも、アーバンシックには先着している。
3走前のセントライト記念ではアーバンシックに完敗しての2着。8番枠からやや出遅れ、そこから無理せずに中団馬群の中目を追走。道中は中団外からじわっと押し上げ、3~4角でも楽な手応えで2番手まで上がると、直線序盤で先頭。しかし、ラスト1Fでアーバンシックに一気にかわされて1馬身3/4差で敗れてしまった。
このレースは3~4角でアーバンシックが内の最短距離を通したのに対し、コスモキュランダは、3~4角の外から位置を押し上げたことでロスが生じており、これがラスト1Fでの甘さに繋がった面がある。ただし、ここで記録した指数は皐月賞と同等のもので大きな成長を見せることができなかった。
それでも本馬は捲れるレースならば、古馬相手の重賞でも通用していいレベルの馬。2走前の菊花賞は休養明けのセントライト記念で好走した疲れが残っていたのもあるが、スタンド前で中団の内に入れたことで、先に外からアドマイヤテラが動いて後手後手に回ってしまったのが14着と大敗した理由だ。向上面で何とか位置を下げ切って後方2番手から、ペースが上がった3~4角の外から仕掛けては大敗しても仕方ない。
コスモキュランダの好走パターンは捲れるか否か。中山芝2200mが舞台でこのメンバーならば、向上面でペースが落ちて捲れる可能性も十分にあるだけに、特注馬とした。
△ (7)マイネルクリソーラ
5走前の京都芝2000m戦、アンドロメダSでは(9)ディープモンスターの2着に健闘した馬。このレースでは2番枠からまずまずのスタートを切り、促しながらコントロールし、コーナーワークで3列目の最内を確保。道中も好位の最内で進めていたが徐々に位置が下がって3角では先頭から離された中団の最内を走っていた。
3~4角で再び3列目の最内まで上がって直線へ。序盤で最内から抜け出してすっと2番手に上がり、ラスト1Fで抜け出したが、そこを外からディープモンスターに差されて1馬身半差だった。
本馬は3勝クラス以降、前の位置が取れずに苦戦。3勝クラスのWASJ第2戦を勝利したのも、3角の後方外から進出していく早仕掛けでの勝利だった。しかし、5走前は内枠の利を活かした面もあるにせよ、しっかりポジションを取っての好走だった。
4走前の中山金杯では15番枠からかなり押しての先行策で、終始外々を回り、4角で外に弾かれるロスもありながら3着。ここでも位置を取れていた。
しかし、その次走の中山記念で出遅れて、その後に先行力を喪失。中山記念は明確に出遅れたことで、後方2列目の外で脚を温存することに徹し、ハイペースに巻き込まれなかったことで5着に善戦しているが、その後は前に行けなくなっているように、調子落ちを感じさせるものだった。今回はそこから立て直されての一戦。先行力を取り戻せていれば、ここも上位争いに加われる余地がある。
△ (18)ボーンディスウェイ
2走前に東京芝2000mで行われたオクトーバーS(L)の覇者。ここでは6番枠からまずまずのスタートを切り、押してハナ争いに加わったが、最終的には内外の2頭を行かせ、3番手で様子をうかがう形。道中でもペースが落ちなかったので3番手外を維持した。
3~4角でペースが落ちると、外からじわっと仕掛けて4角で2番手に上がり、逃げ馬と1馬身1/4差で直線へ。直線序盤で先頭に立ち、ラスト2Fで追われるとしぶとく伸び、ラスト1Fでややリードを広げて1馬身3/4差で完勝した。
2走前は超高速馬場かつ逃げ先行馬がわりと手薄だったこともあって本命にしていたが、前後半5Fが58秒3-59秒1と想定よりもワンランクペースが速かった中でもがんばり抜いた。
3走前の七夕賞では、前半3F33秒6という短距離戦のような展開の中でかなり押して先行し、3番手で進めた本馬にとって、前走の中山金杯程度のハイペースは何の問題もなかったのだろう。最後の直線ではずっと左手前のままで走っていた。
2走前が本格化を感じさせる内容だっただけに、前走の中山金杯でも狙ったが、ここでは3着。ホウオウビスケッツにプレッシャーをかけられてオーバーペースで逃げるクリスマスパレードらに2列目の外から食らいついていったため、最後に甘さを見せてしまった。
それでも、ラスト1Fでクリスマスパレードを捉え切り、先行馬では最先着を果たしたのは地力があればこそだ。ただし、前走が休養明けでハイペースで2走前以上に消耗度の高いレースとなっているだけに、ここで反動が出る危険性もある。
推定1番人気馬 (2)レーベンスティール
昨年はエプソムCとオールカマーを連勝。エプソムCでは6番枠からまずまずのスタートを切り、コントロールして好位の中目を追走。道中もペースは緩まなかったがそのままの位置を維持し、3角でワンテンポ待ってから外の馬を行かせ、その後ろから進出を開始する。
4角出口でラケマーダの外に誘導し、中団で直線へ。序盤で軽く肩鞭が入るとすっと伸び始め、ラスト2Fでは一気に先頭付近まで上がり、ラスト1Fでそのまま抜け出して2馬身差で完勝した。
エプソムCは東京開催16日目、Cコース使用6日目で馬場の内側が悪化しており、外差し有利の馬場。最後の直線は馬場の良い外を走らせていたとはいえ、コースレコードが出るほどの緩みない流れを、前半で位置を取りに行って完勝したことは評価できる。
2走前のオールカマーは4番枠からまずまずのスタートを切り、コントロールして好位の中目を追走。2角までは掛かっており、道中は折り合いに専念する形で進めた。
3角で前にスペースを作り、4角出口でスピードに乗せて3列目まで上がる。直線序盤でそのまま内に切り込んで3番手に上がったが、前の(17)アウスヴァールが壁になった。ラスト1Fでも進路がなかったが、残り100mで外のリカンカブールを押しのけて進路を作ると、半馬身抜け出し先頭でゴールした。
最後の直線でスムーズに進路が作れていればもっと楽に勝っていたと見ているが、3角でスペースを作り、4角出口から上手くスペースを潰して捌いており、致命的なロスではなかった。
それよりも、ここは2着が逃げたアウスヴァール(10番人気)、3着が2番手のリカンカブール(12番人気)だったように、異様な高速馬場で前有利な展開。折り合いに専念しながらも、前から離されない位置でレースを進めた鞍上の判断は正しかったと見ている。
前走の天皇賞(秋)は休養明け好走後となる、疲れ残りの一戦。かなりのスローペースで前有利の展開を14番枠からやや出遅れ、内の馬と少し接触して中団やや後方からの追走に。2角でダノンベルーガが躓いた余波で外に出され、3~4角で外を回るロスを作る形になってしまったが、ラスト2Fでは追われても伸びを欠いていた。
今回はそこから立て直され、巻き返しを期する一戦。ここも2走前のようにアウスヴァールが逃げる可能性が高く、スローが予想される。ある程度前の位置で進めたいところではあるが、前走で行きっぷりが良くなかった点がやや不安。また極端ではないが、馬場の内側が悪化してきているだけに、本馬の評価を下げて嵌れば強い外目の枠の馬を狙うことにした。
公開日時:2025/01/26 12:51